気をつけたい高齢者の少食と低栄養
印刷用PDF監修:藤谷順子先生(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院リハビリテーション科医長)
高齢になるにつれ、
・歯や義歯のトラブル
・服用している薬の副作用
・持病の影響
・不活発な生活
などにより、少食になりがちで体がやせてきますが、「年をとったら当たり前」と思っていませんか?
個人差はありますが、少食が健康な生活を維持できなくなる程の低栄養状態を招くこともあります。
高齢になっても、まんべんなくいろいろな種類の食品を摂ることを心がけましょう。
あなたは大丈夫? 低栄養のサインは「やせ」
近年、高齢者の低栄養が問題になっていますが、本人やご家族が少食や偏食による低栄養に気づいていないことが多いようです。
エネルギーが足りていなかったり、血液や筋肉を作るたんぱく質が足りていなかったりする「低栄養」が長引くと、
・筋肉量や筋肉が低下するサルコペニア
・疲れやすく放っておくと要介護状態に進行する危険性が高いフレイル
・活動量の低下
という悪循環に陥りやすくなります。
自宅で訪問診療・訪問介護などを受けている65歳以上の高齢者の約7割の方が「低栄養」もしくは「低栄養のおそれがある」
という調査結果もあります。

動かなくてもエネルギーは使われています
体に蓄えられたエネルギーは、
・生きていく(心臓を動かす・呼吸をするなど)ために約6割
・体を動かすために約3割
・食べ物を消化吸収するために約1割
が使われています。つまり、動いていなくても、しっかりエネルギーを摂ることが必要なのです。
朝食・昼食・夕食・おやつに食べたもの、飲んだものを見直し、何が足りないのかを意識しましょう。
エネルギー・たんぱく質は足りていますか? 順子先生の「ちょい足し」アドバイス
まずは食事の品数を増やしましょう。
食べやすいものを食べきれる量で小分けにして、すぐ食べられるように用意しておくといいですね。
- 朝・昼食にちょい足し!
簡単にすませがちな朝・昼食に卵、乳製品(牛乳・チーズ・ヨーグルト等)、フルーツをちょい足し!
- 品数をちょい足し!
あっさりした、口当たりの良いもので、品数をちょい足し!
お弁当用の冷凍商品も小分けで便利。
- カロリー・たんぱく質をちょい足し!
品数を増やせたら、1品1品を高カロリーや高たんぱくになるようにちょい足し!
- 買い置きでちょい足し!
冷凍食品、レトルト食品、缶詰などを買い置きし、買い物に行けない日の食事にもちょい足し!
外見がやせるということは…
「やせる」とは、「筋肉が落ちる」ということ。
外見がやせれば喉の筋肉もやせてきて、飲み込む力の低下につながります。
喉の筋肉がやせてくると食べ物を送り込む力が弱くなり、1回ゴックンとしただけでは喉に食べ物が残ります。
それを送り込むには努力して飲み込むため、疲れて食べるのをやめてしまうケースが少なくありません。
飲み込みづらくなっていませんか?
低栄養にならないためには、いろいろな食品をまんべんなく摂ることが大切です。
噛む力・飲み込む力が低下してきたらなおのこと、食事そのもので疲れてしまう(=エネルギーを使ってしまう)ことを避け、
ラクに食べられるもので栄養を摂るようにしましょう。
飲み込むことが難しくなってくると誤嚥(ごえん:飲み込んだもの-特に液体-が食道ではなく誤って気管に入ってしまうこと)
しやすくなりますが、とろみをつけて誤嚥しづらい状態に工夫したり、あらかじめ飲み込みやすく作られている市販品を
利用するなどして、食べられるものの種類を減らさないようにしたいものです。
ラクで楽しい食事のために
飲み込む力が低下した方には、やわらかいものや、とろみのついた飲み込みやすい食品が適しています。
常温保存できるレトルト食品も、メニューが豊富なのでいろいろ試してみましょう。
皿に移さなくてもそのまま食べられる容器のものは、普段の食事としても災害時の非常食としても便利なので、
ストックをおススメします。
通常の食事メニューから
- マグロの中落ち・ホタテ・甘えびの刺身(イカ、茹でエビはNG)
- 水餃子・かつ煮(とんかつは衣が固いのでNG)
- スクランブルエッグ・ひらめの煮つけなど
やわらかくてのど越しの良いもの
- 温泉卵・卵豆腐・豆腐のゴマドレッシング掛け
市販品
- 噛む力や飲み込む力のレベル(製品に表記あり)に合った、素材ごとに形を残したムース食など